今回は「死にます」「今から死ぬ」といった言葉と、「死にたい」「消えたい」などの言葉、両方についての解説や対応の仕方を当事者3人に語ってもらいます。
※同じ当事者といっても、背景や感じ方は人それぞれです。あくまで各個人の意見であることを理解した上で、参考にしてもらえたらと思います。
登場人物
生きかたカエル
司会進行。プロフィールはこちら。
海野つばさ(仮名)
自閉スペクトラム症で過敏。産まれた時から生きづらい。うつ病経験者。
詳細⇒生きづら人物wiki「私は恵まれた家庭で育ちました。それなのに・・・」
和泉陽(仮名)
ADHDとHSPを併せもつFtM。自殺未遂でICUに2回入っている。
詳細⇒生きづら人物wiki「とにかく普通になりたかった」
揚石遥香(仮名)
機能不全家族育ち。境界性パーソナリティ障害の診断歴あり。
詳細⇒生きづら人物wiki「母は絶対的な理解者だと思っていた」
今回の当事者(海野、和泉、揚石)は友達同士です。
1.「死にます」「死にたい」はどういうこと?
生きかたカエル(以下、カエル) 3人の中で「今から死にます」とか「死にたい」って周囲に言ったことある人はいますか?
揚石 「死にます」はないな。
和泉 うん、ないね。
海野 人選が…(笑)私もない。和泉は未遂してるけど、誰にも言わずにした感じ?
和泉 そうだね。
海野 揚石は「死にます」はないけど、支援者を慌てさせるような言動はしてるよね?
揚石 「切っちゃった(リスカ)」「飲んじゃった(OD)」はいっぱいしてる。「飲んじゃった」というか、飲みながら「飲んでます」って言ってた。
海野 「死にます」も、わりとそこの心理に近い部分はあるのかなって思うけど。
揚石 なるほど?確かに。でもああいう時って、とにかく感情が優位になっちゃって、自分に主導権はない気はする。
海野 外傷的な感情が昂っちゃって、ちょっとイッちゃってるというか、違う世界にいっている感じはあるよね。私は自分では「感情の酩酊状態」と表現している。
揚石 今、酩酊の意味を調べたけど、そんな感じ。「大脳が軽い麻痺を起こし、自己抑制や判断力が低下し、誇大妄想的気分になった状態」だって。
海野 あ、そうなんだ。じゃあ誇大妄想の部分はちょっと違うかな。
揚石 でも誇大妄想的なところはあると思う。「死にます」とか「飲みました」は、普段自分が構ってもらえる存在じゃないと思っているところの、その意識が誇大化して出ちゃう。
海野 自分の感情や意識が膨張しているのはあるよね。
和泉 まあ正常な状態ではないよね。スイッチ入っちゃってるわけじゃん。だからそのスイッチを外してあげて、現実に戻してあげることがきっといいんだろうなとは思う。本人は求めてないかもしれないけど。
海野 でも「死にます」まで言われちゃうパターンで考えると、言われる側に引き出している何かがあるんじゃないかとは思うよね。例えば自分が相談して冷たい対応されたりしたら、怒って「死にます」とか言っちゃう気がするな。なんというか、「死にたい」くらいは平和だよね。
揚石 平和だなあ。
海野 「死にます」は一応行動宣言だけど、「死にたい」は気持ちの吐き出しだからね。
和泉 話は戻るけど、死にたい人って24時間365日死にたいわけではないじゃん。どんなに結構病みめでもさ、ご飯食って美味しかったなとか、テレビ見て笑ったりとか微妙にするわけじゃん。
海野 それは、本当にうつ病っていう、脳の物質がバグってしまっているときは違うよ。私は24時間365日「死にたい」「どうやって死ぬか」ばかり考えていた。そういう時は、もうお薬しかないと思う。周りは変に刺激せずに、薬が効くのを待つ。
和泉 そっか。
海野 でもサバイバー(※)的な、慢性的な希死念慮は和泉の言う通りだと思う。だからスイッチを外すために何をすればいいか、という話をしよう。
※サバイバーとは・・・サバイバー人権宣言に詳しい説明があります。
生きかたカエルコメント
同じ「死にたい」「死にます」といっても、その要因や背景はさまざまです。
借金などの生活苦からくる自殺念慮、うつ病や双極性障害などの症状としての希死念慮、虐待やDVなどの状況から逃れたいという自殺願望、漠然とした不安や言葉にできないつらさからくる「消えてしまいたい」のような希死傾向…。
今回のテーマは、長年の暴力被害や抑圧状況の影響で、いわゆる複雑性PTSDに代表されるようなトラウマを抱えている人たちについてです。死にたいほどつらい思いを訴える人は、誰もが大なり小なりそういった傷を抱えていると、カエルは長年の経験から感じています。
2.よくある対応について
カエル 「死にたい」と言った時に、「大変だったね」「つらかったね」と言われるのはどう思う?
海野 結論からいうと、人と場合によってそれぞれだと思うけど…和泉はどう?
和泉 寄り添われすぎると、ズブズブいったりするじゃない。「もう本当大変で本当につらくて…」って一人でつらくなりそう。
揚石 それはそうだよね。
和泉 だから「本当大変でしたよね」とかはちょっと正解ではない気がするな。どんなに求められても過剰に共感はしない。もちろんそれにしても対応はするんだけど、「何かあったのかい?」とか。
海野 ああ、「何かあったのかい?」っていうのはすごく分かる。病んでいる時って実は本当はきっかけがあるんだけど、それが言語化できなくて「死にます」にぶっ飛んじゃうみたいなところない?
揚石 あるある。
和泉 ある。「死にたい」のスイッチが入る時って意外と些細なことだったりするよね。
揚石 やっぱそれは日頃ずっと我慢させられているみたいな意識がそこに来るのかね?
海野 そもそも自分が我慢をしているのか、何を我慢しているのか分かってないのかも。
カエル 支援者や周囲の人たちがすぐに言いたくなるような「死んでほしくない」とか「死んだら悲しいよ」というのはどう思う?
和泉 一番ダメなやつじゃない?「お前に何が分かるのよ」って言いたくなるし、態度で示せって感じじゃない?
海野 「金よこせ」みたいな?
和泉 あと「駆けつけろ」みたいな。でも、「死にたい」って特定の友達に連日メールとかしている場合は、そういう対応になっちゃうんだろうね。
海野 確かに、友達や家族視点で考えると「死んだら悲しいよ」というのは、真っ先に発信したい自分の気持ちではあるかもね。でもなんか病んでいる時って、他人の気持ちなんて知ったこっちゃねえって思うんだけど、どうですか?
和泉 それな。
揚石 でも相手はたぶん「話が通じる」と思っているから言っちゃうよね。
海野 確かに、いくら病んでいると言っても、普段は話が通じるときもあるからね。
揚石 そうね。
海野 だから「話が通じる」がベースだと思われちゃって、モードが切り替わったのが分からずに対応されちゃうっていうのが、結構あるあるなのかな。
生きかたカエルコメント
トラウマの症状として、日常的に意識や思考の状態が変化、変動するというものがあります。置かれた環境や状況、周囲からの働きかけ、刺激によって意識や思考の「モードが切り替わる」当事者をカエルはたくさん見てきました。
ただし、意識や思考がどのように切り替わるのか、モードがどのような状況なのかは個々でかなり異なります。理解しておきたいのは、実態として、意識や思考が一定しなかったり、自分の意思とは関係なく切り替わってしまったり、防衛的に切り替えたりすることがあること。そして何より、それが生き抜くために必要な手段であることです。
3.自分がされた対応を振り返る
海野 2人は自分だったらどう対応されたい?「死にます」とまでは言わなくとも、感情が酩酊して誰かにSOSを求めている状態の時に。されたくない、の方でもいいけど。
揚石 うーん、どうだろう…
海野 揚石は「飲みます」って言ったらどう対応されてきたの?これまで。
揚石 駆けつけてくれるよ。
海野 そっか。そうだよね、まずはね。
揚石 駆けつけてくれると満足する。でも駆けつけてほしくてやるようになるから、誤学習になっちゃう。
和泉 あ、満足するんだ。
海野 和泉はそうでもない?
和泉 分からないな。SOSを送らないから、駆けつけてもらった経験がない。でも入院は守られている感じがして好きだった。衣食住が確保されている、という別ベクトルの話だけど。
揚石 入院は嬉しいよね。だって安定した大人が常に周りにいるんだよ。
和泉 安心安全があるよね。
海野 なるほど。
和泉 「死にたい」って言われた時に、「自分に何ができるんだろう」とかはあんまり思ってほしくない気がする。
海野 うんうん。
和泉 でも揚石は駆けつけてくれたら嬉しいのか。
揚石 自分のは関係が終わる相手とのやり取りだったから…。続いていくタイプの人間関係では、駆けつけてくれる人はいなかったかも。駆けつけてもらえるとその時は嬉しいけど、成長につながる関わりではないから。
和泉 そっか。
揚石 でも、その時にはそれが必要だったのかなとも思う。全くされなかったらどうだったのかは…分からないけど。
海野 そうそう、今それが気になってた。ある程度振り回すっていうのをやらないと、溜まった傷や毒を吐き出すというのかな、それは言葉ではどうしてもしきれないと私は思う。「相談に乗って分かってもらえたので、不適切な行動は全くせず立ち直っていきます」というのは、サバイバーの場合は幻想だよ。だからって振り回しが増長すると本人も周りも疲弊していくから…ほどほどに振り回す絶妙なラインがあったりするのかなとは思うけど。
揚石 そうなんだよね。でも適度な振り回しってどこに終着があるのかな。
海野 揚石は、今は交際相手を振り回してそれなりに生きているわけじゃん。
揚石 うん。でも、思ったようには振り回されてくれないし、他の点で相手にメリットのある関係だから、それはそれでいいよねとは思っている。
4.自分で自分の対応をするなら
海野 今、私たち3人とも一応、一番ホットな(精神的に不安定な)時期は抜けたわけじゃん。当時のスイッチが入っている自分に、もし今の自分が会いにいけるのであれば、どう対応する?
揚石 「周りからはこう見えてるよ」って教える。
海野 ほう。「構ってほしくてやっていると思われてるよ」みたいな?
揚石 それもだけど、感情が暴走している状態に見えるとか。
海野 結構冷静なフィードバック。それを言われたら、当時の揚石はどう反応すると推測されるの?
揚石 えー、喋ってる間は「知らないよそんなの」って言うと思う。でも後から冷静になった時にはちょっと入るかなって感じはする。
海野 感情的な時は聞けなくて、後から入るっていうのは人間のあるあるだね。
和泉 そうだね。
海野 私の場合は、どうかなあ。私は、「死にます」「死にたい」とかって、ある種の暗号だと思っているから。なぜ「死にます」「死にたい」と言っているのか、過去のことも目の前にいる相手(言われている側)との関係性も含めて、読み解いてくださいっていうのが、私の求めていることなんですよ。
揚石 なるほど。
和泉 あー。
海野 「読み解いてくださいよ」っていうのはタチが悪いのかもしれないけど、それを紐解いてくれないことには、結局は立ち直れないんだよね。だからその暗号を全力で真摯に解こうとしてくれるっていうのが、スタンスとしては正解になるんだと思う。
揚石 うんうん。
海野 だから、とりあえず「あなたとの関係性も要因だからね」という前提を一番わかってほしい。「今、冷静じゃないよ」じゃなくて「自分の対応(の積み重ね)が冷静じゃなくさせている」という。それが全てではなくて、根源は過去のことなんだけど、もし「死にます」と言っている場合は、絶対に関係性が要素に含まれているから。その側面に謙虚であってくれれば、私はちょっとスイッチが切り替わる。
和泉 俺は(もし「死にたい」と言われた場合は)「お前、なんて言ってほしいの?」って聞きたいかもしれない。「なんて言ってもらったら満足なの?」みたいなのを。
海野 それを聞いたら当時の和泉はなんて答えるの?
和泉 なんか我に返るかもしれない。そもそも当時は「助けてほしい」とか「つらい」でいっぱいで、「自分が何を求めているのか」「なんでこうなったか」みたいな発想がどこにもなかったから。
海野 なるほど。「何かを求めているんだね」という発想自体が刺さるんだ。
和泉 「ちょっと考えてみろよお前」みたいな。
海野 でも、それもちょっと私のと似てるよね。言っているのはある種の暗号だよね、みたいな。
和泉 だからそれをソフトに、そんなどぎついことは言えないので。要は「死にたい」は表現であって、裏に何かあるんだな。
生きかたカエルコメント
「死にたい」はわかりやすく表に見えていることで、例えるなら氷山の一角ともいえます。
氷山には、海の底に隠れている大きな部分があります。それを本人と周囲が確認したり、納得したり、発見したりするプロセスが大切です。でも海の底は深く、見えにくいことから、すぐに全容がわかるわけではありません。
とにかく、氷山の奥に何かがあること、それが今のその人に影響を及ぼしていることを理解し、ともに氷山の解析していくことが大切です。その作業は支援やサポートというより、「私も知りたいと思うので、よかったら教えてください」「どうしてそんなに苦しいのかきっと訳があると思うので、それを知るために力を貸してください」というような姿勢になるはずです。
5.対応のポイント
海野 「何かあったのかい?」系は、基本的には間違いにはならない気がする。でもあんまり最初からそれに持ってかれちゃうと、気持ちを軽く見られてると思うから…。「死にます」「死にたい」という言葉が出るほど大変なことがあったのをしっかり受け止めた上で、本当に言いたいことを探していく感じかな。
和泉 そうだねえ。
海野 あ、でもこれは例えば親とか、利害関係がある場合はやばいかもしれない。「何かあったのかい?」は「お前だよ」って言われちゃう。
揚石 それはそうだ。
海野 だから「何をどう感じているの?」みたいに聞けば一番丸いかもしれない。結局人が何をどう感じるかは、聞いてみないと分からないからさ。死にたいと思ったことのない人って、悪気なく死にたい人を傷つけちゃう時も結構あるじゃん。
和泉 でも、聞いても「分かりません」って言われちゃうかも…?
海野 確かに。それが簡単に分かったら「死にます」「死にたい」とは言ってないんだよね。
海野 家族、恋人、友達は難しいよねえ。やっぱり。
和泉 言ったことないなあ。
海野 身近な人に言うタイプと言わないタイプがいない?
揚石 そうかも。
和泉 とりあえず友達とか恋人とかはさ、「死にたい」とか「死にます」とか言われたらすごくびっくりするし、重いじゃん。みんな一生懸命話を聞いてあげるわけじゃん。そういう人たちは「どうしたらいいだろう」「自分に何ができるだろう」「この電話を切った後死ぬんじゃないか」って思うわけだよね?
海野 思うらしいね。
和泉 本当は「死にたい」の裏にあるものを探すのが着地点なんだけど、そのスキルがない人にとっては、ただただ聞くしかできない。だから着地点が「生きててほしいよ」になっちゃうのかな。
海野 「自分が何かしなきゃいけない」という風に思っちゃうんだよね。でも本当は、私たちは「死にたい」で言いたいことを当ててほしい。
和泉 当ててそれを返して、本人が「そうだったんだ」って気づいたら終わりじゃない?
海野 本人が自分の「死にたい」の本当の意味にたどり着いたときに、「死にたい」「死にます」が終わるというか、ひと段落つくみたいなことでいい?
和泉 終わらないかもしれないけど、「そうだったんだね、そういうことだったんだね。それはつらいわな。じゃあホットミルクでも飲んで寝なよ」みたいな。現実というか、今この瞬間に戻していかないといけないじゃん。
揚石 うんうん。
和泉 周りができるのは、解明していくところまでだよね。
6.周りの人へ
海野 でも焦っちゃう気持ちもすごく分かるから、「死にたい」って言われる人のメンタルケアも大事だなと思う。やっぱり飲み込まれちゃうし、「死にたい」って言われたのはそんなにオープンにできる話でもないしさ、相談できる人が限られてくるじゃん。サポートする側の孤立も結構問題だよなって。支援者なら一応チームでやるからいいけど。
和泉 「死にたい」って言われた人が、「『死にたい』って言われた」と言える場所もほしいね。
海野 それは喋っててすごく思った。要は「死にたい」と言われるサポーターの自助グループみたいな。
揚石 聞く側が「受け止めるのは苦じゃない」「自分はつらい気持ちになっちゃいけない」と思っちゃうと大変だよね。受け止める側も苦しいって思っていいし、それで感情が揺らぐのは当たり前だから、抱えきれないときもあるけど、それは自分のせいじゃないって整理は必要だよね。
海野 「どうにかしたい」って思っちゃう気持ちは、私は直接開示してほしいな。それはやっぱ自分に価値を感じてくれているってことだし、その事実は別に悪いことじゃないから。死んでほしくない気持ちと、「あなたの人生はあなたの人生だから」という尊重の気持ちと、両方あるのが一番嬉しくない?死んでほしくない気持ちだけだと一方的な感情というか、エゴだと思うんだけど、それを抱いてもなお尊重できるなら、愛情らしきものだなって思ったりする。
和泉 それすごい高度だよね。求められる側。
海野 そう、高度なの。分かってる。誰もしてくれないし(笑)
和泉 もうちょっと初心者級の話もほしいな。中学3年生が同級生に言われた時ぐらいのレベルの。
海野 ああいいね。でもそうなると「何かあったの?」の方に戻るのかなって思うけど。
和泉 あ、そうか。
海野 でも当たり前だけど、とりあえず否定しないのは大事だよね。どんなことでもそうだけど、発言はデマンドであって、そこには本当はニーズがあるし、結局はニーズを聞いてほしくて発信しているわけだから。言葉の裏にあるものを感じたり考えたり、一番は想像してほしいなって思うよね。ちょっとこれも精神論すぎるかな。
和泉 いや、いいんじゃない。
揚石 うん。
和泉 あとはさ、基本的に誰かが死ぬ死なないは本人の決断であって、周りがどれだけベストを尽くしても、それは止められないってことは理解してほしいよね。それを理解した上で関わらないとしんどいだろうし。
海野 良いこと言うね。
和泉 何もできないんだよ、周りは。
揚石 そうなんだよ。死ぬとか以外のことでもさ、「周りを変えられる」「自分の行動で他人が行動変容する」って結構みんな幻想を抱いているよね。でもそれはそうじゃないし、むしろそうなっていること自体が危険だから、本人に権利というか、主導権を戻してあげるのが大切だと思う。